| 投稿者名:五味院長 タイトル:ボツリヌス毒素Aの可能性 
               
   たかひろさん   あなたの質問にお答えする前にわたしの方から個人的な質問をさせてください。それは、五味クリニックに電話した時の受け付けの応対の印象についてです。
 わたしは体臭多汗の悩みの辛さとそれを治したい患者さんのすがるような気持ちについて、従業員には常々教育しているつもりですが、もしその時の対応が冷たくあしらうよなものでしたら、ここで本当にお詫びいたします。
 ただ受け付けの者の真意を付け加えるならば、わたしのクリニックでの守備範囲を超えている印象をもったためそのような返答になったとも言えます。
 実際にあなたの汗は「味覚性発汗」というものでわたしのクリニックでは治療はできません。
   味覚性発汗は、辛いものを食べた時などだれでしも経験するものです。しかし、ときにはチョコレートやチーズなどでも起こることもあり、人によっては他の特定の食べ物でも発汗することがあります。
 この程度なら問題がないのですが、まれにどのようなものを食べても常に顔とくに額や鼻などに異常に汗をかいてしまうこともあります。
 このような状態になると、友達や彼女との楽しいはずの食事さえも苦痛なものになり、あなたの言うように「死ぬほど辛い」気持ちになってしまいます。
 このような食事による異常な汗の原因は大きく二つあるようです。ひとつは、通常の「味覚性発汗」に「精神性発汗」が上乗せされた場合です。
 つまり、過去に食事をした時、顔に大量の汗をかき、困った思いや恥ずかしい思いなどをしてから、意識が異常に食事と汗との関係に向かい、食事をするたびにまた汗をかくのではないかという「予期不安」が潜在意識に植え付けられることが原因の場合です。
  このケースでは、根本的な治療にはなりませんがまず「精神性発汗」の治療に準ずる精神療法等をまず試みることをお薦めします。
   さらに、食事の1時間くらい前に抗コリン剤を服用することもある程度は効果的でしょう。ただし抗コリン剤は、口渇や便秘、さらに尿の出が悪くなるなどの副作用もありますから、長期連用はお薦めできません。彼女とのデートの食事の時など特定の時にのみ服用するべきです。   そして、これはわたし自身は経験がありませんのであなたの自己責任において治療をうけらるならばの話ですが、「ボツリヌス毒素A]の皮膚内注射が効果があるかもしれません。これはドイツのマンハイム大学のファッケル先生が、手のひらの難治性多汗症に試みてある一定期間(10ヶ月ていど)の減汗効果があるという報告をしています。
  ボツリムス毒素は発汗神経のアセチルコリンの遊離を阻害するため抗コリン剤と同じような効果があると言われています。
   しかし問題は何回もの注射が必要なことと、多分わたしの知っている範囲では日本では、眼瞼のけいれんの治療に試験的に使用されたのみであり(先生の名前は忘れました)、顔面への応用はまだないことです。    しかし、あなたのように深刻に悩まれている場合には一つの選択ではないかとも思います。(まず額などで試験的に行うことも一つの方法でしょう)   そしてもうひとつの原因は、体に病気があって顔面の発汗神経が障害を受けたときにも起こります。例えば糖尿病の神経障害のとき唾液をだす神経が発汗神経のなかに再生されると、食物を食べて唾液をだす刺激で同時に汗もでることがあります。この場合には当然ながらそれぞれの基礎疾患の治療が必要になります。
   わたしがあなた質問にお答えできるのは以上ですが残念ですがわたしのクリニックではあなたの治療は専門外となります。(抗コリン剤は処方できます)しかし治療法はあるのですから、決して「死にたい」などと思わないで力強い生き方をしてほしいと思います。
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